「君立海の生徒でしょ?起きなくていいの?」
バスの中でかけられた声で慌てて起きる。
目の前にいたのはすごく綺麗な女の人で。
それが、俺と先輩の出会いだった。
俺はそれから、先輩に会うためだけに早起きしている。
≪朝だけの特別な時間≫
「先輩!」
そう言って声をかけると、先輩は本から目を離して俺を見る。
いつも通学路にあるベンチで本を読んでいる先輩。
テニス部の朝練よりも早くいたりするから、すげえと思う。
前に何でこんなところで本読んでるんだと聞いたら秘密って言われた。
そんなミステリアスなところもまたいいんだけど、なんて。
「ねぼすけ君、おはよう」
栞を挟んで本を閉じながら綺麗に笑う先輩。
こんな綺麗な人、男なら絶対に放っておかない。
だからこんな場所で読んでるの危ないんじゃねーかと思うんだけど。
「もうねぼすけじゃないっすよ!いい加減に名前覚えてくださいって!」
「名前くらいわかってるよ?寝坊助寝太郎でしょ?」
「誰っすか!?」
先輩はくすくすと笑って俺にごめんごめんと言う。
結局先輩は俺のこと名前で呼んでくれたことなんてない。
だから俺だって先輩のこと名前で呼んでやらねーんだ。
そう思いながらベンチの隣のスペースに腰掛ける。
「つーか先輩、こんな所いたらナンパされますよ」
「ないない。こんな朝早くから本読んでるような陰気な女に誰がナンパするのよ」
「俺とか」
「あはは、ナンパなの?」
また綺麗に笑って俺を見る。
先輩は俺のこと本気になんてしてなくて、いつもこうしてかわされる。
可愛いとか、綺麗なんて言っても「ありがとう」って笑顔しか返ってこない。
きっと先輩は言われ慣れているのかもしれないなんてその度に思う。
「ナンパっすよ。俺と一緒にテニスコートにどうっすか?」
そんな誘いあるかと笑われて、また今度ねなんて言われる。
本当、先輩は一体ここで何をしているんだろう。
学校が始まる時間にはもういないことは知ってる。
でも、朝はここから離れようとしない。
一度幽霊じゃないすよねと確認したこともある。
謎ばっかりの、朝にしか見れないこの人。
ただ、俺が来ると本を閉じてくれるのは、俺と話す気があるんだと嬉しくなる。
今はそれだけで充分なんだ。
この綺麗な笑顔を俺が独り占めできるこの時間が
俺は大好きなんだ。

| |