毎朝、通学路に必ず見かける男の人がいる。
近道する公園のベンチに座るその人を見かける度に
何だか気になりだしてる自分に気付いてて。
だからいつか声をかけてみたいなんて思っていたけれど
そんな勇気なんて、あるわけもなくて。
「遅刻!!」
そんなある日、私は寝坊をして時間ぎりぎりの中猛ダッシュしていた。
そこでいつもの公園を通ると、その時間でもその人はいて。
そしたら急にこっちに気付いて、私を見て、笑顔で。
その人は、一言だけ。
「頑張りなっせ」
それはとても大きな声ではなかったけど
私に響くには充分だった。
≪変わる世界≫
「今日とかいるのかな…」
休日にいつもの公園に来る。
毎朝いたんだから、休日だっているんじゃないかなーと思ったからなのだけど
さすがに休日はいないのか見当たらない。
結局いつもその人が座ってるベンチに座って空を見る。
歳は一体いくつなんだろう。
そういえばどこの人だったんだろう。
ここ大阪なのに、明らかに大阪の言葉じゃなかった気がする。
この近くに住んでる人なのかななんて
何だか色んな事が気になってきて。
ただいつも見かけてただけなのに
私の中でどんどん大きくなっていく。
何よりあの一言は、私にすごく存在感を示して。
知り合いたい、仲良くなりたいって気持ちがどんどん沸いてきて。
「何見とると?」
「え…空…」
ぼーっと考えていて気付かなかったけど
空を見ていた私の視界を遮るように私を見ていた人がいて。
それは毎朝見かけていたその人で。
「え、え!?」
「あはは、慌てとるたい」
「そ、そりゃ慌てますよ!!」
いつの間にいたのかとか、顔が近いとか、何か色々出てきて言葉にならなくて
私を見下ろす様にしていたその人は笑いながら私の隣に座って。
っていうか、背、すごく大きかった。
「視界遮ったとに反応のなかけん、どぎゃんしたかと思うたたい」
「す、すいません考えことを」
「はは、よかよか」
隣で笑うその人は、すごく優しくて
何だか胸がドキドキいってる。
「毎朝見かけるばってん、近くに住みよると?」
「は、はい。一応通学路で…」
その人の喋る一言一言が、体中に溶け込んでいって
恥ずかしくて嬉しくて
聞きたいことがたくさんあったのに何も聞けなくて
「こん前は遅刻ばせんかったと?」
「あ、ギリギリ間に合いました」
「そらよかったばい」
名前とか、住んでる所とか
色んな事が知りたいのに
色んな事が聞きたいのに
何て聞けばいいかわからなくて
「あ、あ、あの!」
「ん?」
「な、名前…!!」
やっと出てきたのは単語だけで
それだけなのに顔が熱くて
湯気が出そうなくらい熱くて。
「あぁ、俺ん名前ね?千歳千里ちいうたい。
お前さんはどぎゃん名前とや?」
「…です」
「…。よか名前やね」
そう言って綺麗に笑うから
目を逸らせなくて、何だか胸はときめき続けて。
千歳さんの優しさで、何だか心は落ち着いて。
「あの、いくつなんですか?」
今度はちゃんと、聞きたかった事が聞けて。
千歳さんはまた優しく笑ってくれて。
「中3たい」
「中3!?同い年ですか!?」
「さんも中3なんね?」
「は、はい…」
中学生にしては大きすぎるでしょう。
それにすごく落ち着いてるし、ずっと年上だと思ってた。
そんなびっくりしてる私に「同い年やけん、よろしゅうね」なんて笑う千歳さん。
ほらまた、心臓がときめいてる。
本当に些細なきっかけで
私が気付いて、あなたも気付いたことなんて奇跡みたいで
こうしてのんびり話してるのが、不思議で。
ドキドキがうるさくて、だけど何だか心地よくて。
それから私は、起きるのが少しだけ早くなって
公園に向かうと、いつもベンチに座ってるあなたがいて。
毎朝の景色が少しだけ変わった。
それは、夏のある日のできごと。

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