好きだ好きだと考えていても言えなくて
でも一緒にいたくて
なのに理由もなく一緒にいるのって何か変な気がして
相手に何か思われたらどうしようとか
何かそういうことばっかり考えちゃうくせに
告白したら気まずくなるとか思っちゃって思いも伝えられない。









≪仕組まれた未来≫













教室の窓際。
私は席についてノートにシャーペンを走らせる。
仁王は椅子に足をかけながら座って窓の手すりで頬杖をつく。
他人の席の椅子を拝借してるのに、上履きで汚れるとか考えてないらしい。
その窓から心地よい風が流れてきて、髪やノートを揺らしていく。
そんな放課後に、ふと口を突いた言葉。

「人間って不思議だよねぇ…」
「何じゃ急に」

仁王はものすごい冷めた顔で振り返って私を見て
私は仁王の向こうの空を見て
そうしたら仁王もまた空に視線を戻して。

「好きな人がいるとするじゃん」
「あぁ」
「でも異性とか考えちゃうと理由がなきゃ一緒にいられないじゃん」
「そうかのう」

例えば一緒にどこかへ行こうなんて誘えない私は
放課後に仁王がいつも窓際で外を見てるのに気付いてから
こうして教室に残って勉強しているふりをする。
元々放課後によく残っていた方だけど
こんなに毎日残るようになったのは、全部仁王と一緒にいたいから。
私はこうでもしないと一緒にいられないわけで。

「だから一緒にいるためには告白するとかするしかないじゃん」
「まぁな」

さっきから聞いてるんだか聞いてないんだかわからない軽い返事の仁王。
ちゃんと聞いてる?と苦く笑って仁王を見ると
聞いとるよとこっちを見ずに手を振る。

「でも振られたら気まずくてこれ以上に一緒にいられなくなるでしょ」
「そりゃそうだな」
「だからって卒業や別れを機に言うなんて、時間がもったいないじゃん。
 両想いになれたらもっと一緒にいられる時間があったはずなのにって思うはずだもん。
 想いを伝えたいだけならともかく
 付き合いたいなら友達以上恋人未満みたいな
 意味もなく一緒にいられる関係の人だけがやるべきなのよ」
「あー…で?」

段々めんどくさくなってきたのか、仁王の声がかったるそうになっていく。
そりゃいきなり話しかけられてこんな長々と話されたらめんどくさいと思うけれど。

「そんなこと頭ではわかってるのにさ、告白する勇気って出ないんだよね」
「だから不思議か」
「そう、不思議」

なるほどなーなんて流すような返事が聞こえて、その後また訪れる無音。
私は勉強しているのだから、喋っている方がおかしいのだけど。

仁王と一緒にいる理由が欲しい。
恋人とかそういう大人っぽいことは私にはまだよくわからない。
ただ一緒にいる理由が付き合うということなら、やっぱり告白しないといけなくて
友達のままで一緒にいられるならそれでもいいけど
一緒にいられるわけでもなければ、仁王が私に気付いてもくれないわけで。
それに、仁王にだって一緒にいたいと思ってほしい。
人の考えてることが見えたらいいのになんてため息をついて。

「お前さん、好きな奴がおるんか」
「まぁねー」
「じゃあいいものをやろうかの」

仁王が立ちあがって自分の席に行くと、鞄を取って手を突っ込む。
何かを取り出して、後ろ手に隠しながらこっちに近づいて来て。
またパッチンガムみたいなやつじゃなかろうかとびくびくしていた私の目の前にぽんと出てきたもの。

「花?」
「おもちゃじゃよ。さすがに本物持ち歩く趣味はねえ」
「そりゃそうよね」

しっかりと茎がついてる花。
造花っていうか、本当におもちゃ。
振るとプラスチックの白い花弁がカタカタと音を出して揺れる。

「これは花弁が抜けるという代物でな」
「へぇ…」
「まぁ後でまた差せるけぇ、これで恋占いでもしてみたらどうじゃ。好き、嫌いって」
「はぁ?」

恋占いって…。
さすがに今どきそんなことする子いないと思うんだけど。
くるくるとそのおもちゃを回しながら困っていると
まぁやってみろなんて仁王が言う。

「それで両想いだったら告白でもしんしゃい。
 意外とそれ当たるんじゃよ」
「えー、仁王ってこういうの信じなさそうなのに」
「あー…姉貴から貰ったんよ。
 でも俺には使い道がないからのう」
「あぁお姉さんか。だからやるって言ったのね」

苦笑いをしながらそう言うと、本当に当たるなんて言う。
お姉さんに彼氏でもできたんだろうか。
それなら納得だ。

「まぁそういうわけだ。
 俺は外を見てるから思う存分やりんしゃい」

そう言って仁王はまた椅子に座って窓から外を見る。
どうやらやるのは強制らしい。
何となくぴっと花弁を引っ張ると本当に抜ける。そして差せる。
こんなものが売ってるんだなぁなんて思いながら見つめて10秒。
心の中で呟きながら指が動いてて、自分で苦笑した。
こんなものやったところで、どうせ告白なんてできないのに。
まぁ、どっちになるかなんてわからないし
もし最後が嫌いになったら当たるというそれを信じて諦めようじゃないか。

カチャカチャと音を立てて机の上に溜まっていくおもちゃの花弁。
プラスチックの音だけが教室に響いてく。

好き、嫌い、何度も繰り返して最後の1枚。

「…好き」

思わず口に出てた。
「嫌い」になったら信じようとか思ってたけど
いざ「好き」が残ってしまうと信じられる気がしなくて。
もやもやして最後の花弁をじっと見てると聞こえた声。

「俺もじゃ」

びっくりして勢いよく仁王を見ると
いつの間にかこっちを見ていつもの意地悪な笑顔をしていて。

「な、当たるじゃろ?おもちゃじゃから数が決まってるしな」
「あ、え、え!?」

そりゃおもちゃなんだから数なんて最初から決まってる。
言われて気付いた。
つまり好きから始めたら必ず好きで終わるようになってたわけで…。
嫌いから始める人なんて少ないだろうし、何より好きから始めるよう誘導された。
完全に全部読まれてた。
その上好きなのもばれてた。
いっぱい思いつくことはあるのに何も言葉が出なくて口がぱくぱくする。
そんな私の顔を見て、楽しそうに仁王が笑う。

「まぁ、最初にお前といようとしたのは俺の方だからな」

そう言って仁王の手が伸びてきて、指先が私のおでこに触れる。

「俺が教室に残ってんのはお前さんがいる時だけじゃ。
 それ以外は基本的に屋上じゃよ」

俺のこと知らなさすぎだなと指で額を弾かれる。
わざと自分に気付くよう、私の席の近くにいるようにしたなんて言う。
私がよく残るようになって期待したなんて言う。
でも自信がなかったなんて言う。
さっきの言葉で確信したなんて、言う。

「わ、わかったなら言ってくれたらいいのに…!!」
「お前さんの自信がなさすぎたのと、告白させたかったから、かのう」

真っ赤になっている私を見て、笑いながらそんなこと言って。
こういうの嵌められたっていうんだと思う。
全部全部仁王の思い通りな気がして何だか癪なのに
立ちあがってこっちに近寄る仁王に心臓が鳴ってしまう。

「さて、理由もできたことだし、一緒に帰るぜよ。
 そんで帰りにどっか寄って行かんか」
「…うん」

本当は勉強なんてしてないことも全部お見通しなようで
「さっさと片付けんしゃい」なんて勝手にノートを閉じてしまう。
本当に敵わないなぁなんて、ちょっとだけ悔しいのに
それはそれで心地いいんだよなぁなんて思って
差し出された手をぎゅっと握った。







木春菊(マーガレット)の花言葉。
マーガレットは恋占いに使われる花です。
奇数枚の花が多く、実は好きから始めたら高確率で好きで終わるという。
見事に勇気をくれる花です。

こういうことするのは仁王か幸村くらいだろうなと思ったんですが
幸村だとおもちゃより実物が出そうだったので仁王かなぁと。
実は仁王が内心ドキドキしてたらいいなぁと思うのですが、みなさんどう思いますか。