「失恋、してしまいました」
「…あのクラスメイトの女か?」
「えぇ。彼女には想い人がいるようで」
「そいつは、残念じゃったのう」

それは、彼の心で折れた枝を自分の胸に突き刺したような
大事な友を傷つけられた恨みのような感情。
そんな、中途半端な興味からだった。











≪罪悪に咲き乱れ≫











「ねえねえ君!」

声をかけられて振り返ると、少し離れた場所から俺を呼ぶ女子の姿。

「君仁王君だよね。柳生君の相方」

ぱたぱたと走ってくるそいつに目をやる。
長い黒髪を風に遊ばせながら
ぴょんぴょんと跳ねるように話すその女。
話したこともないのに
俺はこいつを、詳しく知っている。

「お前さんはあれじゃな。柳生のクラスメイト」

誕生日も血液型も、性格も癖も好きな食べ物も、全部聞いた。
好きな、奴すらも。

「目立つね、その髪の色」
「そうかのう」
「うん、一目見てわかったよ」

柳生を傷つけたことも気付かぬそいつは
悪びれた様子もなくからからと笑うから
何かちょっかいを出してみたくなった。

「なら、見かけたときに声かけんしゃい。
 俺もお前さんに気付いてやるナリ」
「あはは、じゃあ声かけてみるよ。仁王くんも、私に声かけてね」

本当に、些細な気持ちだった。
ただ、柳生が好きになったこいつがどんな奴なのか
直に見てみたかっただけだった。



だけどそれは
次第に大きくなる。

「どうしたんじゃ」

それから一つの季節を跨いだ頃
それは、咲いた。

「フラれちゃった」

屋上でぽつんと立って、泣き腫らした目でそいつが静かに笑った。
途端、ドクンと胸が鳴った。

「柳に告白したんか」
「あれ、柳くんって言ったっけ?」
「…見てればわかるぜよ」

そんな俺を見て、がくすっと笑う。

「仁王君てば、柳くんみたいだよね。
 私の誕生日も知ってたし、血液型も知ってたでしょ?
 それに好きな人まで当てちゃうし。
 あ、この前は私の好きなお菓子知ってた」

楽しそうに思い出しながら、そう笑い
そして、切なそうな表情をするそいつ。

「本当、柳くんみたい」

今度は、イラッとした。
俺はあいつなんかとは違う。
あんな奴と比べるな。
そんな顔で、あいつを想うな。
俺は、ずっと、ずっと――

「仁王君?」

の頬に手が伸びる。

聞いたことを覚えてるのは
自然と、目で追っていたのは
あの日から声を、かけ続けていたのは――

「俺はどうやら、お前さんが、好きなようじゃ」

折れた枝が、俺に勝手に根付いただけだ。
ただの思い込みだ。勘違いだ。
柳生に何て説明するんだ。
頭の中で踏み切りのような警告音が響く。
先に進むなと、それ以上いくなと
想いを育ててはいけないと。

「え、な、何言ってるの?」

俺にだってわからない。
わからないのに体が、言葉が
勝手に俺の想いを伝えさせる。

「キス、していいか?」
「あ、あの…その…まっ…」

戸惑うそいつの手を掴んで
拒まれないように口付ける。

最悪だとわかっているのに。
理性が働かない。

「かわいいな」
「あの、仁王く…」
「柳に似てるんじゃろ?
 なら俺じゃ、だめかのう?」

あの時柳生の話を聞かなければ
あの時仲良くならなければ
今、お前に気付かなければ

この想いは、育つこともなかっただろう。

「だ、だって、その…私…今…」
「大丈夫じゃ、すぐに忘れる。俺が、忘れさせる」

ぴくんと反応したの首筋に痕を残す。
どうせすぐにこの想いは根付く。
このまま、根付かせてやる。
俺はもう
この花を枯らすことができないから。






木槿は枝を切って地面に刺すと、いつの間にか根付くと聞いて。
花言葉は信念とか尊敬とか。
あと誕生花としての日付が8月26日だったりして最初は神尾も考えてたという。

最初はヒロイン視点でヒロインの友人が失恋するはずだったのですが
何故かいつの間にか柳生君が失恋していました。