できるなら、独り占めしたいよ。
だけどさ、丸井って、友達多いんだもん。
きっとその中にライバルもたくさんいる。
でも、みんな友達って言われたら、どうしようもないよ。











≪切ない二つの恋心≫











「また、喋ってる」

放課後になると丸井はいつも行く場所がある。
校庭から見える空き教室の窓際。
そこにいるのは隣のクラスの美術部の子。
よく絵のコンテストとかで表彰されてたから、覚えてる。

きっと彼女は丸井が好き。
そんな気がしてしまうのは、嫉妬からか。
それかこの前仁王が怪しいな、なんて言ってきたせいかもしれない。

丸井は放課後になるといつもその教室でその子と話すから
時々、私じゃなくてその子を好きなんじゃないかと不安になる。

でも、一緒に帰りたいとか言って私を待たせるから、よくわからない。
丸井は彼女の絵が好きだからなんて言っていた。
確かにあの子の絵は上手いからわかるよ。
私にも絵が描ければ、丸井はあの子の所に行かないのかな。
でも、結局あの子よりうまく描けなければ意味がないなら、無理な話。
隣の芝生は青く見える。青く青く。

不安になってこんな場所からずっと見ているようじゃ
彼女じゃなくてストーカーだ。
告白してきたのは丸井のはずなのに
私の方が好きなんじゃないかって不安になるよ。

「お待たせ!」

そんなこと考えてたら結局時間が過ぎて、いつの間にか夕方になってる。
あっけらかんと話す丸井に、私は何も言えなくて
聞きたくもないのに「楽しかった?」なんて聞いて。

「おう、あいつやっぱり絵上手ぇよな」
「うん、そうだね」

並んで歩く帰り道。
丸井は私のことなんて見ないで先を歩いて
ずっとずっと、あの子の話ばかりして。

「ねえ」

立ち止まって声をかけると「何?」って優しい顔で振り向くから
私のこと好き?なんて言葉が言えなくて。

「もうちょっと、ゆっくり歩こうよ」
「ん…?まぁいいけど」

手、繋いだことないね。
キスも、したことないね。
今も、こんなに距離がある。
付き合う前の方が、楽しかった。
付き合う前なら、一緒に帰るだけで嬉しかった。

あぁ、遠い。

「なぁ―」

振り向いた丸井がびっくりしたような顔をして
慌てて「どうした!?」なんて聞いてくる。

「お、俺何かした!?」

それはすごく辛そうな顔で、見たこともない表情で。
一生懸命で。

「何で?」
「何でって、お前、泣いて…」

震えた手が私の頬に触れて、涙を拭って。
初めて触られたような気がして、少しだけどきってした。
でもそれはきっと、気の所為じゃない。
初めてだよ。触れたの。

「どっか痛いのか?」

胸が、痛いよ。

「それともやっぱ、俺のせい?」

息が、苦しいよ。

「…ごめん」

私だけを、見てよ。

「ねえ、何で震えてるの?」
「え?」

私の顔を覗き込むように見ていた丸井がその言葉に驚いた顔をして
自分の手を見て、情けなく笑った。

「だっせえな俺。告白するより超緊張してんの」

それがどういう意味かわからなくてきょとんとする私に
その震えた手は優しく私の頭を撫でて。

「触っても、平気?」
「う、うん…」

返事をすると同時に、私は丸井の中にいて。
今度は私がびっくりして動けなくて。

「ずっとさ、こう、ぎゅーーってしたかったんだけど
 拒否られたらどうしようかと思って」

安堵したような、でもまだ緊張してるようなその声。
まだ、どこか不安そうな声。

「あのさ、別れるとか、言おうとしてないよな?」
「何で?」
「泣いてたから」

あぁ、別れられたらどれだけ楽だろう。
この人を、好きじゃなくなれば。
きっとすごく楽なのに。
疑ったり、嫉妬したり、他の女の子を羨ましく思ったり
そういうの、なくなるのに。

「丸井は、私のこと好き?」

いっそ、嫌いになりたいよ。
いっそ、別れてほしいよ。

「好きに決まってんだろぃ。
 だから触んのも緊張して、手も繋げねぇ」

俺だせぇよなって、小さく乾いたように笑う。
そのまま、私を抱きしめる腕がぎゅって少し強くなって。
本当に好きだからって震える声で呟くから。

ずるい。

ずるいよ。

そんなこと言われたら、嫌いになんかなれない。

こんなに辛い恋なのだから
今すぐ離れてしまいたいのに。
こんなに苦しい恋なのだから
今すぐ別れてしまいたいのに。
結局私は、君が好きなまま。
結局離れることもできないまま。

「私も、好き。だから、手、繋いで帰ろうよ」
「…さんきゅー」

そうして震えた手が優しく私の手を握る。
嬉しそうに丸井が笑って、ゆっくり隣を歩いて帰る。
きっと丸井は明日もその人の所へ行く。
他の女の子ともたくさん喋る。
だから私はいっぱい嫉妬して、不安になって
人気者の丸井を、ただ見ているだけ。
ただ、こうして帰っていくだけの日々に。

消え入りそうな想いのまま、ずっと、君を想う。






【朝(あした)咲き 夕(ゆうべ)は消ぬる月草の 消ぬべき恋も 我れはするかも】
万葉集より、詠人不知。
意味は『朝に咲いて夕方には消え入るように花を閉じる月草のような、儚く切ない恋を、私はしています(するのでしょう。してしまったのだろうか。等々)』
一般的な名前は露草。綺麗で可愛い青いお花です。

両想いのはずなのに何故か片思い風。
相手の想いは見えないので、お互いに不安。
丸井からしたら自分だけが好きな気分。
本当に好きだったらこういう初々しさもありかなっていう。
純粋とかの花言葉の花に当ててもよかったかなぁ。